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オカン

もしやアナタは?

昔々の話。
オカンはマネキンと言う仕事をしていた。
マネキンと言っても、別に、ショウウィンドウで着飾って微動だにしない等身大の人形では無いのは言うまでも無い。
今で言う人材派遣社員みたいなものと言えばわかりやすいだろうか?
大手デパート等に派遣される販売員だった訳だ。

オカンは妙に向こうっ気が強い。
派遣された職場でも随分ブイブイ言わせていた様で、そんな様が簡単に想像が付く私としては、同僚として一緒に働いていた人たちに申し訳なくて仕方が無いのだが、本人としては、そんな「主役」的な立場だった事が自慢なのだろう。
ガキの頃はよくオカンの武勇伝を聞かされてはウンザリしたものだ。


当時オカンはある大手デパートの衣料品売り場で働いていた。
本人談なので誇張されているところはあるのだろうが、どうやら販売員としては優秀らしい。
派遣元の事務所からは重宝がられていたのも事実で、そんなこんなも手伝ってか、職場では一目置かれる存在だったらしいのだ。
まぁ、販売成績の他に、オカンの鼻息の荒さもあるだろうと言う事は、この際、こっちに置いておこうか…。
そんなオカンがブイブイ言わせていた職場でのお話である。

ある日、オカンが出勤すると、何やら新人さんが入ってきた様で、同僚から紹介を促されたその新人さんはオカンに挨拶をした。
「マツオカズコで御座います」と。
「マツオカズコ?」
オカンは思った。
「コイツ、歌手の松尾和子を名乗ってるな?」と。
つまり、新人におちょくられていると感じたらしいのだ。
どうしたらそう言う受け取り方になるのか、息子である私からしても、オカンの思考のロジックが理解出来ないのだが、何しろオカンはそう感じたらしい。
更にオカンは先述した通り向こうっ気が強い。
職場では(本人曰く)親分的な立場だったらしいので、子分たちの手前、おちょくられて黙っている訳にはいかないと言う心理が働き、ある行動に出た。
つまり、相手が有名歌手でくるなら、こちらも有名歌手で対抗しようと。
深々とお辞儀をする新人のマツオカズコさんに対し、オカンも深々とお辞儀をしつつこう言ったのだ。


美空ひばりでございます。


斯くしてデパートの衣料品売り場での2大スターの邂逅が行われてのである。

翌日、オカンはいつもの様に電車に乗り通勤をしていた。
ふと車内を見渡すと、なんと同じ車両に新人のマツオカズコさんがいるのを発見した。
車内の端と端位の位置だったらしいのだが、オカンがマツオさんに視線を送ると、マツオさんもオカンに気付き、満面の笑顔で車内を歩きながら近づいきたらしい。
そして2人の距離が3メートル位になった頃、マツオさんは大きな声でこう言った。


もしやアナタは美空ひばりさんでは!?


勿論車内の乗客は一斉にオカンに注目するのは言うまでも無い。
オカン曰く「顔から火が出る思い」だったそうで、執拗に美空攻撃をしてくるマツオさんをいなすのに精一杯だったそうだ。
当然、マツオさんはわかっててやったのだろう。
なにせマツオカズコは本名なのだから。
大体、マツオカズコなんて名前、普通にある訳で、それをおちょくられたと受け取る方がおかしいのだが、まぁ、それがオカンがオカンたる所以なのかもしれないので、今更そこをつつくのはやめておこう。
とにもかくにも電車内で盛大に恥をかいたオカンだったが、電車が目的地に着いた為に、どうにかこうにかその場を凌ぎきった。
いや、少なくともオカンはその時、そう思ってたらしい。
そそくさと電車を降り職場へ急いだ。
ところが職場に到着するとタイムカードが無い。
おかしいなと思っていると、別の同僚がニコニコしながらやって来てタイムカードを手渡しながらこう言った。
「アナタのタイムカードはこれ!」
手に取ったタイムカードには


美空ひばり


の名が燦然と光り輝いていた。
さしものオカンも「負けた…」と感じた様だ。
チャンチャン。






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